2024/11/01

RETAIL-BIZ

実力店長はここが違う![連載No.287]

(株)田中コンサルティング事務所 田中司朗


薩摩ごかもん


未来のエースプレイヤー育成で売上120%&リピート率向上!


薩摩ごかもん 梅田茶屋町本店
川岸 遥 上級店長(29歳)




 「薩摩ごかもん」は九州味めぐりが楽しめる郷土料理専門店。株式会社ダイヤモンドダイニング(松村厚久代表)が経営しており、薩摩酒蔵をイメージした、和の趣あふれる大人の隠れ家だ。

看板メニューは「活いか姿造り」(時価)、「馬刺し盛合せ」(2,178円)、「宮崎名物チキン南蛮」(990円)。このお薦め3品で売上の3割を占める。この他「黒豚羽付鉄板餃子」も人気だ。

今月お話を伺ったのは、薩摩ごかもん 梅田茶屋町本店に異動して4カ月の川岸遥上級店長。それまでは土佐料理専門店の「わらやき屋 大阪北新地店」に勤務していた。川岸店長はこのわらやき屋で売上120%アップ、リピート率50%以上、営業利益向上169%、覆面調査24カ月連続平均187点などを達成した強者だ。自らが会社を代表して「S1サーバーグランプリ」への出場も果たした、社内屈指のサービスレベルを持つ。一部では「スタープレイヤー」とまで表現されることもあるほど、関西地区のエースプレイヤーだ。本人に圧倒的なサービススキルがあるだけでなく、後輩スタッフを次期エースプレイヤーへと育成する力も有する、まさに実力店長である。

以下、わらやき屋大阪北新地店と、薩摩ごかもん梅田茶屋町本店の2店における取り組みについてお聞きした。

売上好調120%増の3要因


1.リピート率50%以上

川岸店長の店舗目標は「〝当たり前〟の継続と底上げ」だ。底上げとは、売上を上げるだけでなく、スタッフのサービス力も上げるという意味。わらやき屋大阪北新地店(60席)の2022年の売上は750万円だった。23年は900万円で、前年比120%を達成。コロナ禍でランチ営業も行って乗り切り、そのランチ客がディナーへとつながった。リピート率は50%。飲食店のリピート率は通常25 %前後なので、これは素晴らしい数字である。

薩摩ごかもん


2.スターを育てる教育力

川岸店長はファンが多くつく、花形プレーヤーである。そしてスタッフたちもまた優秀なエースプレイヤーに育て上げるべく、日々しっかりと教育している。コロナ禍においては社員中心の営業だったが、その後アルバイトを募集。独自のマニュアルを作って新人たちをトレーニングし、徹底的に教育してきたという。そのため、今ではスタッフ一人一人のファンが増え続けている。


3.改善スピード力

上長から衛生管理・接客・クリンリネスに関する指摘があった場合、それを改善するスピードは早い。問題点や改善策をスタッフと共有し、速やかに実践する。そのスピーディな改善力は社内でもトップクラスだ。「すぐやる行動力」は、実力店長の共通点である。


店長のちょっといい話

★東京から大阪への出張時、毎回わらやき屋に来店する常連客がいて、毎度「皆さんで食べて」とお土産を持ってきてくださる。そんな心遣いがうれしい。

★北新地は歓楽街なので、同伴などで来店してくださるお客様も多い。常連になったクラブの女性から、店長の誕生日にサプライズのプレゼントをいただいた。

★わらやき屋のアルバイト卒業生が、社会人になって別の土地に引っ越しても、毎年わらやき屋で忘年会をしてくれる。

★人見知りでコミュニケーションの苦手な女性が、大学1年生で初めてアルバイトをした。4年間わらやき屋で接客業に携わることにより、コミュニケーション力が身に付いたという。「教育実習や発表などの場でも緊張せずに活動できたのは、この店で働いてきたおかげです」と店長に語ってくれて、胸が熱くなった。

川岸店長の影響を受けて学ぶうち、いつしか自分自身の成長を実感できるようになるスタッフは多い。


店舗運営で気をつけていること

薩摩ごかもんは131席の広い店なので、店長はスタッフの動きを全て見られるわけではない。だからこそ日頃から気配りや心配りの面まで、きめ細やかにスタッフをサポートすることが重要だと川岸店長は考えている。

例えば、個室が多い店ゆえに、所作や手先の動きまでお客様から見られていることを意識するようアドバイス。また席効率を上げることよりも、お客様の気持ちをくんでご案内するよう指導している。ビジネスマン2人の場合はカウンターよりテーブル席へ、お子様連れの家族にはテーブル席より個室へ、それぞれご案内するのだ。

薩摩ごかもん

スタッフの笑顔率は現在80%ぐらい。新人スタッフにはいつも「顔がこわばっていたらお客様は声をかけにくいよ」と指導。気づいたときにはその都度「今、笑顔が出ていないよ」と、そっとささやくという。

ガラス面が多い店なので、クリンリネス面ではその美しさに気を付けており、常にきれいに磨いている。入り口扉のガラスと取っ手も徹底的に磨き上げている。また清掃用具やダスター、スプレーなどは、お客様から見える位置に置かないようにしている。


店舗運営で気をつけていること

店舗コンセプトが「お祭り」なので、店長の毎月の目標も「活気づくり」や「笑顔の挨拶」などが中心となる。アルバイトスタッフも個人目標を決める。店長との1on1ミーティング(面談)で一緒に1カ月を振り返りながら、翌月の目標設定をする。例えば「団体のお客様に対しては声を大きく」「セルフオーダーだからこそ、常にフォローを心がける」「個室の卓上ケアの徹底」などだ。

薩摩ごかもん


またグループLINEで指示をした場合、入店時に毎回その内容をスタッフに尋ねて確認する。これは、徹底力を上げるためには重要なことだ。

川岸店長の褒めると叱るのバランスは6対4。営業中は気づいたことを注意(指摘)することが多いが、スタッフがシフトを上がるときには今日の指摘に対する説明を行う。「あのときはこうした方がお客様はもっと喜んでくださるよ」など。そして必ず、その日良かった点を褒める。新人スタッフには「今日はどうだった? 困ったことはない?」と毎回聞く。

いつもスタッフの意見を聞くことにしているという川岸店長。面談では8対2の割合でとにかく聞く。スタッフから「ここが気になる」「こんなことをやりたい」という意見が出た場合、良いアイデアならすぐに実行する。

川岸店長の今後の夢を伺うと、「この店(薩摩ごかもん梅田茶屋町本店)のリピート率を上げていくこと。それが私のこれからの目標です」と、熱く語ってくれた。



◆店舗情報

薩摩ごかもん


店舗名/薩摩ごかもん 梅田茶屋町本店
所在地/大阪府大阪市北区芝田1-8-1 D.D.HOUSE 1F TEL/06-6372-2710
店舗面積/77坪
客席数/131席
営業時間/平日17:00~23:00、金・土・祝前日17:00~24:00
客単価/4,100円
平均月商/1,300万円
従業員数/正社員6人、PA20人




◆著者プロフィール
たなかしろう
(株)田中コンサルティング事務所代表。大手ファーストフードからステーキハウスまでの店長・SV・営業本部長を経て独立。雑誌「飲食店経営」25年常連執筆。「実力店長養成講座」(出張研修)は300社2万人実施。中国飲食経営者日本視察セミナーコーディネート実施。著書「店長の仕事」「実力店長はここが違う」(商業界)「売上5割減でも巻き返せる!これからの飲食店経営者・店長の教科書」(同友館)。田中コンサルティング事務所 ブログ累計25万人突破。

※こちらは「飲食店経営」 2024年11月号からの転載記事です