2024/02/01

RETAIL-BIZ

外食の”今”が分かる!データから把握するお客様動向[連載No.79]

 ㈱リクルート
「ホットペッパーグルメ外食総研」
研究員 竹田クニ



2030年に341万人、40年に1,100万人の労働供給が不足
労働のあり方のパラダイムシフトが必須




外食は流行の動きも早く、お客様の嗜好も変わりやすい。そんな外食の“今”をデータから把握しようという連載です。立地、業態、ターゲットなど、店舗の特徴に加えて、お客様の動向を参考に店舗の戦略策定に役立てていただければとの想いを込めました。

現在、大きな業界課題となっている「人材不足」は、日本の人口減少、人口動態の推移からくる構造的なものと考えられます。株式会社リクルートの外食市場に関する調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」では、これまでも消費者の動向についてさまざまな調査を行ってまいりました。今回は、今後ますます大きな課題となる人材不足に関する、調査データを解説いたします。


労働力の絶対数不足が確定している未来

リクルートワークス研究所が発表した「Works Report 未来予測2040」によると、これからの日本において、2030年で341万人余、40年で1100万人あまりの労働供給不足が指摘されています(図表①)。

職種別の予測においては、外食産業や宿泊サービスに該当する「接客データから把握する連載外食の"今"が分かる!給仕・飲食物調理」のカテゴリーで、30年が17.9万人の不足、40年が56.6万人の不足と予測されています(図表②)。

現在の外食業界でも既に人材不足が叫ばれています。しかし、構造的な問題なので、今後、加速度を増して需給のギャップが広がっていくでしょう。


図表① 労働供給シミュレーション

図表② 接客給仕・飲食物調理

出典:リクルートワークス研究所,2023,未来予測2040-労働供給制約社会がやってくる


外食産業の就業者数は19年421万人をピークに、22年381万人と約10%減少

一方、総務省「労働力調査」によると、外食産業で働く人々はコロナ禍を通じて約10%の減少。要因としては閉店・退店の増加も考えられますが、コロナ禍において飲食店の仕事から離脱してしまった労働者も相当数に上ると見られ、飲食店で働く魅力の再構築、訴求は課題といえるでしょう。


労働需要そのものを変えていく必要。新たな労働力に期待するも、決め手とはなり得ない

こうした労働力の「絶対数の不足」に対して期待されるのが、外国人労働者(特定技能)や留学生、主婦、シニア、短時間労働者(スキマバイト)の活用です。さらには「ワーキッシュアクト(Workish Act)※」と呼ばれる新たな労働力の提供も期待されます。しかしながら、こうした新たな労働力も、絶対数の不足に対しては決め手とはなり得ない可能性が高いと考えられます(図表③)。供給の不足に対しては、労働需要そのものの“あり方”を見直すということが重要になってきます。

※ワーキッシュアクト=本業の労働・仕事意外で、何らかの報酬(金銭、心理的、社会的)のために活動すること

外食産業では、機械化、デジタル技術の活用により省力化・省人化が進みつつありますが、現場に労働集約的な業務がまだ多く存在しています。これをもっと大胆に大きく進めていくことが必要となります。


図表③ 労働力の需要と供給の関係


サステナブルな経営のために必要なDXの現状

ここに近年叫ばれてきた「外食DX」の必要性・有効性が考えられます。これまで人が担ってきた業務を分解(アンバンドル)し、必要/不必要、顧客満足に対する有効性、従業員の負荷などを吟味し、機械化、デジタル化で代替するだけでなく、“人手こそやるべき業務に集中する”。その上で、より店が提供する価値を高め、従業員の働く満足度を高めていく取り組みがますます重要になると考えられます。人材不足に対する「対応策」だけでなく、サステナブルな経営のための改革は、こうした観点で今こそ重要になると考えられます。

飲食店のデジタル活用について、外食総研が行った調査によると「デジタルツールを導入することへの興味関心の変化」については、「興味あり」が22年42.8%から、23年45.5%と約2.5%の微増にとどまりまっています(図表④)。


図表④ コロナ禍におけるDXへの興味・関心の変化


「今現場で不足する人材を補充する」ことは緊急課題であることはいうまでもありません。しかし、今後向けて深刻度を増す労働不足に対して、今から未来の経営環境でも=サステナブルな経営に「投資」を足して活動を行うことが必要です。そうした背景を踏まえて、飲食店現場で働く労働のあり方についてのパラダイムシフトが必要かつ重要なのではないでしょうか。




◆著者プロフィール
竹田クニ

1963年生まれ。東京、静岡、長野などで営業責任者を経験したのち、旅行業界のネット予約移行期に営業責任者として業界の進化に伴走するほか、地域活性事業のプロデューサーとして事業受託、講演活動など行う。ホットペッパーグルメリサーチセンターの立上げとともに飲食情報事業に異動し初代センター長に就任。現在はエヴァンジェリストとして、外食産業に関わる調査企画、執筆、講演などのほか、外食産業の生産性向上をテーマに各種業界団体との連携協働、農水省など中央官庁への政策提言活動も行っている。