ホットペッパーグルメ外食総研所長
リクルート人事統括室
有木真理

2023年のトレンドグルメは?
SNSの普及により、昨今のニーズは細分化され、トレンド予測が難しい時代になってきた。特に2023年は、長引いた新型コロナウイルス感染症の位置付けが第5類に移行。特に影響により、グルメトレンドだけではなく、ライフスタイルや働き方も大きく変化している。
トレンド分析も、トレンド予測も困難な昨今ではあるが、今回は「ホットペッパーグルメ外食総研」で行った23年の流行グルメトレンドの調査結果の解説と共に、24年のトレンド予測について解説していきたい。
23年のトレンド一つ目はワンハンドフード
株式会社リクルートの外食市場に関する調査・研究期間、ホットペッパーグルメ外食総研が発表した「23年に流行ったと思うグルメ」のトップ10を分析すると、二つの傾向が見えてきた。
まず一つ目は、「ワンハンドフード」。スマホによる撮影に適したフードは、SNSでバズりやすいということは、皆さんも承知の事実であろう。片手にフード、もう片方の手にはスマホを持ち、フードの物撮りや、食べている自分を撮影する。これを可能にするのがワンハンドフードで、SNSにアップしやすい絵が撮れ、拡散されやすく注目されている。
またコロナ禍が収束し、人々の活動が活発化したことにより、外で気軽に食べ歩きができることも影響しているのではないだろうか。
トップ10に入ったワンハンドフードを見ていくと、1位は「10円パン」(図表①)。これは、韓国で話題となった「10ウォンパン」が起源のメニューであるが、10円ではないのに「10円パン」というネーミングとその形状のユニークさ、また一口かじると中のチーズがとろりと伸びる様子が動画映えすると話題に。SNSやYouTube、TikTokなどで拡散されたことが、その人気を後押しした。
図表①

その他にも、2位「おにぎり専門店」、3位「生ドーナッツ」、6位「チュロス」など、野外の食べ歩きにも、撮影にも適したワンハンドフードが上位に入っていることが分かる。食に精通した皆さんであれば、このようなフードを自撮りしているインフルエンサーの姿を、SNSで見た方も少なくないのではないだろうか。
二つ目は米製品。注目が集まった背景は?
23年のグルメトレンド二つ目は「米粉フード」だ。前出のトップ10の2位にはおにぎり専門店、5位に「ライスペーパー」、7位には米粉パンや米粉パスタ、米粉オイル、米粉クッキーなど、量販店でも目にするようになった「米粉フード」がランクインした。
こちらは、昨今の円安やウクライナ情勢の影響から、輸入小麦が高騰した一方で、国内自給率が高く、比較的安定供給しやすいお米を使った商品開発が進んだことが背景の一つに挙げられる。また、米はグルテンを含まない「グルテンフリー」な健康食であることから、健康食ブームの影響もあるのではないだろうか。ホットペッパーグルメ外食総研では、お米に対する調査も実施。エビデンスとして、その結果も共有したい。
「コロナ過に比べて、おいしいお米を食べたいという気持ちに変化はあるか」という質問に対して、「増した」は32.0%、「減った」は2.2%、「変わらない」が65.9%と、お米を食べたいという気持ちが増した結果となった(図表②)。
また「お米を食べる機会をどうしたいか」という問いに対しては、「増やしたい」が18%、「減らしたい」が3.8%、「変えるつもりがない」が78.3%と、今後のお米に対する需要増加が期待できる結果となった。
図表②

24年の注目は日本食の"逆輸入"と"ストーリーテラー"
では、すでに3分の1が過ぎようとしている24年であるが、今後どのようなグルメトレンドに注目が集まるのだろうか。前途した通り予測が難しい昨今、食に限らず、世界中のマーケットが目まぐるしく変化している。その背景には、SNSの影響や、AIなど新しいテクノロジーの進化もあり、情報流通のスピードが著しいことにある。その結果、消費者の生活様式や情報収集の方法が多様化し、食トレンドもさらに多様化していくと予測される。そういったマーケット変化の中で、個人的に予測する今後のトレンドを最後に伝えたい。
一つは、外食マーケットにおけるトレンドだ。内食、中食、外食と、一つの胃袋のシェアを争う、非常に競争の激しい食マーケットの中で、やはり外食の価値は「人」ではないだろうか。食の魅力を伝える「ストーリーテラー」の存在は、食の価値を高める。
例えば、ソムリエやバーテンダー、バリスタなどの専門職のいる業態はその中でも差別化を図り、ファンを獲得するであろう。また料理人や店主、さまざまなスタッフと会話をしながら飲食を楽しめるカウンター業態もさらに注目を集めそうだ。
二つ目は"日本食の逆輸入”。すでに無形文化遺産に登録され10年以上が経過した和食が、世界中から注目を集め続けている中、海外でアレンジされた日本食が逆輸入され、人気になるという現象が起こるのではないかと注目をしている。
この予測が正しかったか否かは、また1年後。こうご期待。
■調査概要
調査時期:2022年9月22日23日
調査方法:インターネットリサーチ
調査対象:全国20代~60代男女(株式会社マクロミルの登録モニター)
有効回答数:1035件(男性517件、女性518件)
◆著者プロフィール
有木真理
飲食チェーン店での勤務やフードコーディネーター、リクルートライフスタイル沖縄の代表取締役社長、ホットペッパーグルメ外食総研所長を経て、現職。東京と沖縄の2拠点生活を送りながら、外食回数年間300回と大の外食好きで、日本各地の外食事情に詳しく、立ち飲みから超高級店まで幅広いジャンルに精通。食を通じて「人」と「事」をつなぐ活動のオーガナイザーとしても活躍する。沖縄スポーツ関連産業協会の理事も務めているため、食以外にも観光、スポーツにも関わっていることから外食だけでない視点での食トレンドを語ることができる。