2024/08/01

RETAIL-BIZ

外食の”今”が分かる!データから把握するお客様動向[連載No.84]

 ㈱リクルート
「ホットペッパーグルメ外食総研」
上席研究員 稲垣昌宏



デジタルツール導入率は58.3%と、2年連続の増加




外食は流行の動きも早く、お客様の嗜好も変わりやすい。そんな外食の“今”をデータから把握しようという連載です。立地、業態、ターゲットなど、店舗の特徴に加えて、お客様の動向を参考に店舗の戦略策定に役立てていただければとの想いを込めました。

今回は少し趣を変えて、お客様動向に応える店舗の戦略に焦点を当て、2024年3月に飲食店経営者に行った「デジタルツールの導入実態や効果の実感について」のアンケート結果を基に、最新の動向を紹介します。


デジタルツール導入に関心のある飲食店経営者は微減して43.1%減

株式会社リクルートの外食市場に関する調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」では、全国の飲食店経営者1,029人を対象に、「デジタルツールの導入への興味・関心と導入状況・導入後の効果に関するアンケート」を24年3月に実施しました。

まず、経営課題解決手段の一環としてのデジタルツール導入については、今回の調査では飲食店経営者の43.1%が「興味・関心がある」と回答を寄せました。前回調査(23年3月)と比べると、その数値は2.4ポイント減少、前々回調査(22年3月)と比べると0.4ポイントの増加となっています。

前回よりも関心度がやや下がっている原因としては、23年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、飲食店への客足が戻る中で、課題が複雑化したことが上げられます。単純にツールだけで課題解決できるイメージがしづらかったり、人手不足などを背景に現場の業務負荷が増大し、中長期的な課題解決に向けての方策に手が回らない状況も考えられそうです。

また、図表①で提示した15のデジタルツールの「いずれかを導入している」と回答があった割合は58.3%で、前回調査の57.7%から微増、前々回調査の55.6%からも2年連続で増加しています。

「導入済」と「検討中」の合計スコアで見ると69.5%で、前回調査の67.6%からは増加し、前々回調査の66.0%と比べても増加となっていることから、デジタルツールの導入はペースが遅めではあるが着実に進んできているといえそうです。

既に導入されているデジタルツールとしては「キャッシュレス決済」(40.6%)、「自社ホームページの制作/ローカルビジネス登録サービスの活用」(25.1%)、「POSレジ」(22.3%)がトップ3。前回調査では3位だった「集客販促ツール」(22.1%)が4位に後退しました。

また、検討中の割合としては、「集客販促ツール」(11.4%)がトップで、次いで僅差で「経営管理システム」(11.3%)が続きました。いずれのデジタルツールも飲食店経営者の10%前後が導入を検討している状況であることから、今後も多様なデジタルツールが飲食店のオペレーションに組み込まれていきそうです。


図表① 以下のデジタルツールの中で、経営している飲食店で導入済みのもの、これから導入を検討しているものはどれですか?

(各ツールごとに単一回答)
※複数店舗ご経営の場合、代表的な店舗についてご回答ください。



現在の経営課題は「食材費の削減/最適化」が3年連続で増加

現在抱えている経営課題トップ3は、1位「売上UP」(48.0%)、2位「食材費の削減/最適化」(31.9%)、3位「人手不足」(22.5%)でした。前回3位の「顧客満足度UP」(19.0%)は4位へと後退しています。

食材費の削減/最適化と人手不足は、2年連続で課題とする飲食店経営者の割合が増加しました。一方、売上UPと顧客満足度UPは前回と比べると減少しており、新型コロナウイルス感染症の5類移行後は、顧客の獲得よりも店舗のオペレーションやコスト構造に関わる課題の重要度が増してきている状況が浮き彫りとなっています。

他に、2年連続でスコアが増加している課題としては、「労働時間の短縮」(15.6%)、「人件費の削減/最適化」(15.5%)で、これらもやはり人手不足と相関する項目です。

デジタルツールを導入している経営者に、その効果の実感を聞くと、「何らかの効果あり」は80.8%(前回調査比マイナス1.6ポイント)と微減しました(図表②)。引き続き高い水準ともいえますが、課題項目別では「経営数値管理の強化」(同比マイナス4.1ポイント)、「売上UP」(同比マイナス3.5ポイント)などで減少しました。

効果実感の高いツール(中分類)としては、「人事労務管理」(90.1%)、「売上・経費管理」(87.0%)、「店内オペレーション管理」(81.1%)で、こういった分野でデジタルツールの効果が実感しやすいことが分かります。

デジタルツールと対象課題の組み合わせで効果実感が高かったトップ3は、サンプル数が少ないツールも含めてではありますが「集客販促ツール」×「売上UP」(56.4%)、「セルフオーダー、スマホオーダー」×「人手不足の解消」(50.0%)、「ハンディ」×「人件費の削減/最適化」(48.5%)でした。

経営課題別に見ると、2年連続で課題に挙げる飲食店経営者の割合が増加した「人手不足」については、上記の通り「セルフオーダー、スマホオーダー」(50.0%)で、「食材費の削減/最適化」については、「オンライン発注システム」(32.1%)と、それぞれ効果を実感しているようです。


図表② 経営している飲食店で導入済みの以下のデジタルツールについて、導入後の効果はありますか? また、その効果はどんな課題解決において表れていると思いますか?

(導入済店/各ツール複数回答)
※複数店舗ご経営の場合、代表的な店舗についてご回答ください。


■調査概要

調査方法:インターネットによる調査
調査対象:全国47都道府県の20歳以上の飲食店経営者(マクロミル登録モニター)
調査期間:2024年3月8~12日
有効回答数:1029件(男性764件、女性265件)


※本調査の対象者としては、飲食店経営者および一部役員を含みます。また、飲食店はイートイン以外の業態(テイクアウト専門店など)を12.4%含みます。
※各デジタルツールについては、以下の業務をイメージしています。
・POSレジ、mPOS(mPOS:タブレットやスマートフォンをレジ端末として使用できる)、経営管理システム(売り上げ/ABC分析など、請求書のオンライン化等)、オンライン発注システム(食材/日用品を紙ではなくオンラインで発注できる)、ハンディ(注文内容をキ ッチンに自動で送信することができる)、セルフオーダー、スマホオーダー(消費者が自分のスマホから注文できる)、順番待ち管理システム(消費者がWEBで自分の順番を把握することができる)、キャッシュレス決済(クレジットカード、交通系、iDなどでの決済が可能)、予約管理ツール(ネット予約、空席データの可視化、空席・在庫情報の更新)、顧客管理システム(常連客等のデータ管理、メール配信などのリピート促進CRMツール)、集客販促ツール(販促メディア、SNSなど)、自社ホームページの制作/ローカルビジネス登録サービスの活用(消費者向けWEBサイトの制作/地図アプリなどでの自店舗の表示)、テイクアウトの事前注文/決済アプリの導入(スマホアプリ等でテイクアウト希望の消費者が事前に注文や決済ができる)、シフト、勤怠管理システム(スマホアプリ等でタイムカード機能やシフト収集・作成・調整・管理・共有、出勤管理などができる)、人材、採用、給与など人材系の管理システム(オンデマンドでの人材募集・採用/給与計算の自動化、採用管理、人材データ分析・人事評価など)、従業員の教育システム(マニュアルのデジタル化、多言語対応など)




◆著者プロフィール
いながき まさひろ

㈱リクルート ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員。エイビーロード編集長、AB-ROAD.net編集長、エイビーロード・リサーチ・センター・センター長などを歴任し、2013年ホットペッパーグルメリサーチセンター・センター長に就任。市場調査などをベースに消費者動向から外食市場の動向を分析・予測する一方、観光に関する調査・研究、地域振興機関である「じゃらんリサーチセンター」研究員も兼務し、「食」と「観光」をテーマに各種委員会活動や地方創生に関わる活動も行っている。肉より魚を好む、自称「魚食系男子」。