2025/01/08

RETAIL-BIZ

「セルフサービス」とは何か? チェーンストアの “言の葉” 第2回

ロジカル・サポート代表
三浦美浩


6つの技術で便利とワクワクの買物を実現


チェーンストア経営には、さまざまなキーワードが存在します。経営幹部から新入社員まで、同じワードを軸に会話を進めています。しかし、実際に、その言葉の意味を問うてみると人それぞれ、自分流の解釈を持って仕事をしていることが分かります。チェーンストア経営で頻出する共通言語を「チェーンストアの〝言の葉〞」で読者の皆さんと一緒に考えていきましょう。




セルフサービスを始めた第1号店は、アメリカ・テネシー州のメンフィスに1916年、開店した「ピグリー・ウィグリー」という名の食料品店である。国内では、東京・青山に1953年に開店した「紀ノ国屋」がセルフサービスを取り入れたスーパーマーケット(SM)第1号店となった。

セルフサービスを簡潔にいえば「買った商品を自分で勘定場まで運び、そこで勘定を済ます販売方式」(三省堂『新明解国語辞典』より)となる。

アメリカでは1910年代以降に成長を続けたA&Pなどグロサリーストアの大量出店、さらに30年にマイケル・カレンがニューヨークに開店した世界初のSM「キング・カレン」などの誕生もあり、セルフサービスというこの販売方式は食料品中心に定着した。

日本でも50年代の“主婦の店運動”などがあり、食料品中心のSMや衣食住をそろえた総合スーパー・食品フロア中心にセルフサービスは広く普及、拡大していった。日本の「スーパー」登場当時には"スーッと登場して、パッと消える"とまで揶揄されていたこの業態が、セルフサービスの中心を担ってきた。

なぜ食品分野でセルフサービスが浸透していったのだろうか。

一つ目は食品の買物は、非食品に比べて来店頻度が高く、買上点数も多い点にある。精肉店、青果店、鮮魚店などの業種店での買物では、それぞれでは少量しか買わない場合でも、多くの店を回り、都度、精算しなくてはいけないという“不”があった。

二つ目は何といっても自由な買物を提供したことが、セルフサービスが確固に定着した理由である。対面販売の業種店では商品を選ぶのは店の側、お客は必ずしも自由に買うものを選べなかったが、セルフサービスでは自由に品定めをし、選び、商品を手に取り(あるいは気に入らないものは戻し)精算場に持っていけば買物を完結できた。

まさに“欲しい商品が、欲しい価格で、欲しい量だけ、欲しい時に購入できる自由”こそがセルフサービスをお客が支持した理由であった。それが頻度高く、点数多い食品の買物にいち早く、定着していったのである。


進化するセルフサービス
6つの欠かせない技術

誕生から100年超を経たセルフサービスは、現代の消費者にとっても大切な、守られるべき概念である。しかもそのニーズは高まっている。

主婦、消費者の食品の調達は“義務的買物”といわれる。おしゃれな洋服、靴などの楽しい買物に比較して、食料品の買物は生きていくためにしなくてはいけない買物であり、楽しいものではない。

特に頭を悩ますのがメニューで、これは昔も今も変わらない。家事を担う人はその日の夕食メニューなどは店に入ってから決めることが多いのだが、実はセルフサービスは“店でメニューを決めながらする買物”にとても便利なのである。

お客は “今晩、何にしようか?” と悩みながら、店の農産売場に入り、オレンジ色や赤色が華やかな、香り高い果物売場で季節感とわくわく感を抱く。そしてリンゴとミカンの中から子どもの健康を思いミカンを選ぶ。

主通路上の野菜売場では肉、魚料理のどちらでも使われる共通素材の野菜のお薦め商品が目に入る。一段と寒い今日は、白菜を手にメニューは鍋と決め、主通路壁面を見ながら魚売場で必要な鍋のメイン食材、厚切りで3切れ入りのタラ切り身をかごに入れる。

さらに主通路を進み、ゴンドラエンドで提案されていたこだわり出汁の寄せ鍋つゆを買い、のぞき込んだ定番の加工食品売場で、スポッター(フィン)で演出されたお気に入りのこだわりのみりんを購入する。寄せ鍋つゆに少しだけこのみりんを足したら“おいしい”と喜んだ家族の顔を思い浮かべる。

主通路に戻ったお客は通路突き当たりの乳製品売場を見て、子どもが毎朝たくさん飲む牛乳がないのを思い出し、いつも買う牛乳をカートに入れる。最後の惣菜コーナーで、夫婦でつまむ酒のつまみの煮物も購入する。

夕方で少し混んではいたが、レジは全台数開放され、並んでいる人は多くはなかった。ホッとし、素早く精算し家へと急ぐ。

食品の購入という義務的買物ではあっても、セルフサービスはこうしてゆったり、少し楽しく、しかし短時間で買物ができるのである。このようなセルフサービスで便利で楽しい買物を実現するには、小売業側に6つの技術が求められる。


①エキサイトメント

売場先頭の果物コーナーは、オレンジ色や赤色、緑色でカラーコントロールされた縦じまの売場や果物の香りでワクワク感、エキサイトメントを感じさせる必要がある。売場の最初で高揚したお客は、楽しい気持ちで点数買いを進められる。


②料理、メニューを想起できる売場、ディスプレー

最も悩むのがメニューなのだから食品のセルフサービスでは、メニューが目に浮かぶような売場になっていなくてはならない。冬の売場ならばおいしくて安い旬の白菜が数多く陳列され、関連販売で鍋つゆなどがディスプレーされているとお客は素早くメニューを決められる。


売場で旬の商品がしっかりフェースを広げて陳列されていると、お客はメニューが浮かび短時間で快適なセルフサービスの買物ができる。豊かな時代のセルフサービスはわが店のお薦めが重要である


ゴンドラエンドでは定番の鍋つゆとは少し違う、こだわりの新商品がPOP、パネルで提案されていれば、お客はブランドスイッチして新しい商品を手に取るだろう。


③プリパッケージ

セルフサービスでは衛生的な加工場で事前に包装された、プリパッケージの商品が並べられている。魚の切り身なら2切れ、3切れ入り、地域によっては5切れ入りの大容量パックや、少し高いが厚切りの切り身が陳列される。

店の側は、商圏や地域の家族構成から容量、価格などを検討し、また料理用途も考え、加工したものを品揃えする。買う側のニーズに合った商品が、簡単に手に取れるプリパッケージの形で並んでこそ、短時間で快適な購買が実現され、メニューに必要な食材が過不足なく賄える。


④商品レベルの統一

こだわりの鍋つゆを購入するようなお客は、調味料にもこだわる。こだわり鍋つゆにこだわりみりん、あるいは少し高いが厚切りの切り身など、同時に使う商品、同時に食べる商品は商品のレベルが統一されていると便利に選び、買うことができる。


⑤強力な磁石売場

第1磁石から第4磁石までの売場の位置


主売場の通路壁面の購買頻度が高い商品を集めた第1磁石、主通路突きたりの魅力的な商品群の第2磁石、ゴンドラエンドでメニューなどを提案する第3磁石、定番通路内で目立たせた第4磁石、この4つの磁石売場があってこそ短時間で、欲しい商品を買い忘れなく手に入れられるショートタイム&イージーショッピングを提供できる。


⑥迅速でミスのないレジ

最終の接客シーンであるレジでお客が多く並び時間がかかったり、価格違いなどがあったりすると、せっかくの買物が台なしになる。正確で迅速なレジ精算は、セルフサービスの最低条件である。

初期のセルフサービスは、自由に買えることが中心的な概念だった。しかし現代のセルフサービスは、店の側がさまざまな小売技術を活用し、お客を迎える「準備」のことを言う。

“店を開けました、どうぞ自由に買って帰ってください”ではなく、“私たちの一番のお薦め商品、豊かで楽しくなる提案、便利な買物の準備をしました”となる。こうした小売業の主体的なアクションこそが、セルフサービスの重要なコンセプトなのである。


衣料はVP、PP、IP組み合わせ
“質問レス”セルフサービス

食品から定着していったセルフサービスは、現在では衣料品や、住居関連の商品分野にも広がっている。むしろ、高いレベルのセルフサービスを実現している店こそが、非食品の世界でも選ばれ、支持されているのである。

例えばユニクロの売場では、売場入り口の平台にはVP(ビジュアルプレゼンテーション)のマネキンが設置され、その時期のスタイリングが分かるし、その周囲に陳列された商品を手に取れば、素人でも簡単にコーディネートした商品を購入できる。壁上部には商品を着用したモデルのパネルがPP(ポイントプレゼンテーション)として掲示され、その下にはIP(アイテムプレゼンテーション)として実際の商品が並ぶ。遠目に見ても売場を迷うことはない。

カジュアルシャツの売場なら、ファインクロスコンフォート、ファインクロスなど生地、ボタンダウン、レギュラーなどカラー(襟)の種類がパネルで表示されている。動きやすさ、肌触りなど特徴と違いが言葉と写真で、誰でも分かるような説明がある。手触りや着用感を知りたければ、売場前面に専用什器で陳列されたサンプルを触ればすぐに分かる。

売場には、きちんと畳まれパッケージされたシャツが色柄サイズ別に陳列され、縦じまでカラーコントロールされているのできれいに見える。襟裏にはサイズが明示されているので、サイズや商品を間違えて購入することもない。

ユニクロでは全ての商品がプライベートブランドなので、ナショナルブランドと違ってサイズは毎年、統一されている。昨年買ったシャツがMサイズで身体にフィットしていれば、自身の体形が変わらない限り、今年も同じサイズを購入すれば確実にフィットするし、試着も必要ない。

新しいアイテムを買いたいと試着する際も、1カ所に集中している試着室にはスタッフが常駐し、いつでもアドバイスを受けられる。気に入らなかった商品は売場に戻す必要もなく、試着室のスタッフに渡してそのまま帰ればいい。

レジは完全セルフレジでICタグ付きの商品をレジに置けば瞬時に金額が表示され、金額を間違うことはない。クレジットカードをスタッフに渡すこともないのでセキュリティも万全だ。

次に住関連はホームセンター最大手のカインズへとわが家の犬のペットシーツを買いに行く。いつも買っているナショナルブランドの商品ではなく、オリジナルの商品が主通路沿いのエンドに渦高く陳列されているので見てみると、商品の脇には重量、吸収量、逆戻り量、吸収速度が書かれたPOPがある。いずれも一般的なペットシーツより高機能で、しかも"しっかり吸収 しかも乾きが速い"のキャッチコピーもあり、価格も安い。

迷うことなくこのオリジナルのペットシーツを選ぶ。レジはセルフレジで全くスタッフと接することなく精算を終えた。


非食品の売場でも主通路沿いの磁石売場の大量陳列とナショナルブランドと比較した商品の説明POPで、スタッフに一言も尋ねることなくセルフサービスで新しい商品を購入することができる


これまで衣料品や住居関連商品はアイテムが多岐にわたり、その特徴や品質も各メーカーバラバラでお客に分かりにくいものが多かった。多くの場合、迷い、店のスタッフに相談し、気に入って、あるいは妥協して商品を購入していた。

しかしこうした商品分野でも食品同様の“6つの準備”の、パッケージ、ディスプレー、トータルコーディネート、磁石売場などが組み合わせられ、セルフサービスを徹底できていれば、スタッフに一度も質問することなく、自由に、簡単に、短時間で購入することができるのである。


コロナ禍のセルフサービス
VS “フルサービス”の競合

コロナ禍では、あらためてセルフサービスが重要になった。ウイルスの蔓延でお客は店を選び、チラシを見て何店も買い回るのではなく、1店の買物で多く購買をし、店に訪れる回数を減らしている。

それまでは “いらっしゃい、いらっしゃい!” といった大声を出して販売することが“活気”などと称されていたが、コロナ禍では、静かな非接触の環境下で、欲しい商品を過不足なく手に入れられ、迷わず短時間でできる買物が求められた。

レジもセミセルフレジの拡大により、スキャンは専門スタッフが手早く、支払いは自身で自由な支払い方法で行えば非接触で安全・安心な精算ができた。セルフサービスの買物が強く求められていた。

一方、コロナ禍ではセルフサービスにとって強敵が登場した。非接触の買物ニーズ、リモートワークなど在宅の増加などでネットを経由したEC(電子商取引)やネットスーパーの利用が激増したのである。

考えてみればセルフサービスの買物は、お客がほとんどのコストを負担していた。店に来るコスト、時間も、店内の商品選定、ピッキング、精算後の袋詰め、持ち帰る自宅への運搬も全てお客側の負担である。買物行動の中で、唯一の店側のコスト負担はレジの精算のみで、一連の行動においては売り手側の費用負担の"少ない"販売スタイルなのである。

逆にネットスーパーは店側のコスト負担の多い販売形態である。お客はパソコンやスマートフォンで注文をすると買物は完結。商品のピッキング配送のための梱包、配送のデリバリーなどは全て店側が行うことになる。(ビジネスとしてEC、ネットスーパーをどう成立させるかは別に論じるとして)まさに店側の"フルサービス"がECであり、ネットスーパーなのである。

しかもネットでは、レコメンド(お薦め)があり、白菜を買ったら鍋つゆの関連提案だけでなく、作ったことのなかった八宝菜の調味料や、簡単・手作りの浅漬け機をお薦めされることもある。

一方、デジタルの買物は便利だが、一人でスマホ、パソコンに向かうシーンが多く “孤独な買物”である。だからこそリアル店舗は便利さをさらに追求しながら、売場で感じるワクワクや、新しい発見による驚き、食卓で感じる楽しさ、豊かさを高めていくことが重要になる。

“ワクワクする” “楽しい” “驚きのある” セルフサービスこそが閉塞感ある時代には欠かせない。


※「販売革新」2021年2月号掲載誌面を一部加筆し掲載しています




◆ 筆者プロフィール
三浦美浩(みうら よしひろ)

1987年東北大学卒業、損害保険会社勤務を経て㈱商業界入社、「食品商業」編集長、『販売革新』編集長、2011年8月商業界取締役就任、17年1月に独立しロジカル・サポート㈱設立、20年4月にエイジスリテイルサポート研究所所長に就任し現在に至る。