2024/01/01

RETAIL-BIZ

実力店長はここが違う![連載No.277]

(株)田中コンサルティング事務所 田中司朗


や台ずし


職人が握る寿司とアットホームな雰囲気で
売上150%アップ!


本格職人握り 寿司居酒屋や台ずし 大曽根駅西口町
照屋 優輝 店長(32歳)





「本格職人握り 寿司居酒屋 や台ずし(以下、や台ずし)」は株式会社ヨシックスフーズ(瀬川雅人代表)が経営する寿司居酒屋チェーンで、2023年11月末現在で、全国に316店舗を展開している。寿司居酒屋としては日本一の規模を誇るチェーンである。

同社の基本理念は「元気を持って帰ってもらう店なんやで」、社是は「“あたりまえや”を当り前に」。

今月は、「ニパチ」(全品280円の低価格居酒屋)大曽根駅西口町を、2年前に「や台ずし」へと業態転換し、売上150%アップの快挙を遂げた照屋優輝店長にお話を伺った。

照屋店長は店長業務だけでなくサブエリアマネジャーとして、エリアマネジャーの補佐的業務も行っている。取材に同席していただいたヨシックスフーズの伊達富夫常務からも、「ニパチの良さとや台ずしの強みを知りつくしていて、店舗運営力が極めて高い店長です。何かテスト(実験)をするときは、真っ先にお願いしています」とお墨付きをいただく店長だ。


売上好調四つの要因

1.「ニパチ」を「や台ずし」に業態転換

や台ずしの看板メニューは、「握り寿司」(59円〜)、「手羽先唐揚」(3本360円)、「豪快!いかの天ぷら」(レギュラーサイズ999円)。

本格職人がつけ場で一貫一貫丁寧に握った鮮度抜群の寿司を、一貫59円からのお手頃価格で提供している。寿司と居酒屋メニューの商品構成は5対5。寿司やおつまみのテイクアウトもできる。寿司が目当てのお客様が加わったことで、ニパチのときよりも客層が広がったという。


2.接客サービス(笑顔率80%)

照屋店長の店舗方針は「アットホームな雰囲気で、居心地の良い店づくり」だ。スタッフもお客様もみんな家族という、庶民的であたたかいイメージである。

寿司居酒屋にとって大切なのは活気(元気な声出し)と笑顔。明るく爽やかな雰囲気での接客が重要だ。この店のスタッフの笑顔率は80%だという。常連客が増え続けているのは、スタッフたちの笑顔のおかげなのだ。

もちろん店長自身も率先して笑顔で接客している。寿司を握りながら、カウンターのお客様から今日あったうれしい出来事や、時には愚痴などもお聞きする。気軽におしゃべりをしていただいて、元気になってお帰りいただくことが多い。



3.スタッフの定着率90%以上

この店では、2~3年以上勤続のベテランスタッフが多いため、オペレーションが安定している。スタッフの定着率は90%以上。卒業以外の理由では大学生が辞めない店なのだ。

寿司職人としての業務にあたるのは基本的に社員だが、大曽根駅西口町ではアルバイトスタッフでも寿司を握ることができる。ただし、事業部長の厳しい審査が必要だ。


4.16〜19時にアルコール半額

や台ずしでは開店から19時まで、アルコール半額のタイムサービスを実施している。土日祝でも半額のため、ファミリー客や高齢のお客様も多く、この時間帯の売上は全体の4割を占めている。18時までタイムサービスを行う居酒屋はあっても、19時までとなると決して多くはない。しかし、実は19時までの効果が大きい。



店舗運営で気を付けていること

店舗運営で気をつけていることを照屋店長に伺った。「接客態度とお見送りの姿勢です」とのこと。接客態度としては、どんなに忙しくても笑顔と元気な声出しを徹底することが重要だ。お客様に声をかけられたときにそっけない態度をとるのは、絶対にNGだとスタッフに指導している。

お見送りは、ドアを開けて「またのご来店をお待ちしております」と丁寧に挨拶することを徹底。“あたりまえや”を当り前にである。

スタッフの教育はベテランスタッフに任せている。ただ、店長はその様子を常に見ていて、不備があればすぐに正すようにしている。

また、や台ずしには「チンチロリンオールスターズ」というユニークな販売促進のスタイルがある。お客様に2個のサイコロを同時に振っていただき、ゾロ目が出たらドリンク1杯無料、偶数が出たら半額、奇数だとメガサイズ(2杯分に相当)になる。お客様とスタッフみんなで「サイコロ振って盛り上がろう!」と楽しむ、景気のいいチンチロリンオールスターズである。


スタッフのレベルは「7対2対1」

照屋店長は毎日、丁寧な言葉遣いでスタッフとのコミュニケーションを行っている。スタッフ一人一人を尊重し、店長自身は聞き役に徹しているそうだ。だからいつもスタッフの方から「店長、ちょっと聞いてくださいよ」と話しかけてくる。

コミュニケーションにおいて、「聞く」と「話す」の好ましい比率は8対2と言われる。聞くことが大切であり、照屋店長はそれを実践しているのだ。

照屋店長のスタッフに対する「褒めると叱る」のバランスは、7対3。叱るときはくどくど言わず簡潔に叱る。褒めるのは、以前と比べて成長したときが多い。「よく気付けたね」「元気で愛想の良い声が素晴らしかったよ」と具体的な内容について褒め、ねぎらいの言葉をかけている。

ただ褒めるのでなく、スタッフの過去に対し、より向上した「今」の状態を褒める。するとスタッフは、将来に向けて今よりも成長した姿をイメージするようになる。それによってスタッフ自身の意識も行動も変わっていくのだ。

人材の構成比率を表す「2対6対2の法則」(優秀2、普通6、不振2)について、大曽根駅西口町の比率を照屋店長に尋ねた。答えは「7対2対1」だ。優秀なスタッフが7割という見事な数字を答えた実力店長は、これまで決して多くない。素晴らしいスタッフたちである。

照屋店長の次の目標は、名古屋地区25店舗のエリアマネジャーになること。その日は近いだろう。


◆店舗情報

店舗名/や台ずし 大曽根駅西口町
所在地/〒462-0810 愛知県名古屋市北区山田1-4-19
TEL/052-918-7828
店舗面積/41坪
客席数/92席
営業時間/16:00~25:00
客単価/3000円
平均月商/650万円
従業員数/正社員2人、PA11人




◆著者プロフィール
たなかしろう
(株)田中コンサルティング事務所代表。大手ファーストフードからステーキハウスまでの店長・SV・営業本部長を経て独立。雑誌「飲食店経営」25年常連執筆。「実力店長養成講座」(出張研修)は300社2万人実施。中国飲食経営者日本視察セミナーコーディネート実施。著書「店長の仕事」「実力店長はここが違う」(商業界)「売上5割減でも巻き返せる!これからの飲食店経営者・店長の教科書」(同友館)。田中コンサルティング事務所 ブログ累計25万人突破。

※こちらは「飲食店経営」 2024年1月号からの転載記事です