(株)田中コンサルティング事務所 田中司朗

小さなパン屋さんで成功「R Baker mini」!
◆今回の実力店長
R Baker mini 祖師ヶ谷大蔵店
中間 大樹 店長(35歳)
「R Baker mini(アールベイカーミニ)」は、株式会社アールベイカー(廣谷光彦代表)が経営するベーカリー専門店。
コンセプトは「ごぱんでお客様を豊かに」。ごぱんとは、米粉を使ったパンという意味である。アールベイカーについては今月号の連載『繁盛店を目指すなら優良なフランチャイズに加盟しよう!』でも紹介している。
今月は、アールベイカーミニの1号店である祖師ヶ谷大蔵店と、Emio桜台店、イトーヨーカドー大井町店、錦糸町テルミナ店の4店舗(社員5人、PA50人)を運営管理する、中間大樹統括店長にお話を伺った。
祖師谷大蔵店は、わずか8坪のコンパクト店でありながら、月商300万円。アルバイト2人でも運営可能な店で、今後のFC展開に期待のかかる小規模モデル店である。
売上好調三つの要因
中間店長の店舗目標は「焼き立てをいつも切らさずに」である。
1.看板商品3品のシェア30%
看板商品は「のびーるクロワッサン」(280円)。外はサクサク、中はもっちりとしてよく伸びる、独特の食感が味わえる大ヒット商品で、1日80~100個を販売する。「胡椒もち」(350円)は、辛味の効いたもっちりパンで、台湾B級グルメナンバー1だ。「ガトーショコラ ミニクロワッサン」(180円)も人気である。
この上位3品で商品構成の30%を占有。またピザも冷凍で販売していて「マルゲリータ」(280円、5個セット1800円)が定番だ。

2.米粉パン人気
パンのメイン材料は米粉。「心とからだにおいしいパンを」という想いで作られる、もちもち食感のヘルシーな米粉パンだ。国産米粉を使用し、食料自給率の向上と日本の米農家に貢献していることでも注目されている。また商店街の立地で、地域密着型の店舗スタイルのため常連客が多い。
3.冷凍パンの販売
焼きたてのパンを急速冷凍し、焼きたてのおいしさがぎゅっと詰まった冷凍パンも販売。保存が効き、自宅でいつでも焼きたての味を楽しめるのが魅力だ。売れ残ったパンは、翌日50%オフ(6個セット)にて冷凍販売している。
冷凍パンのメリット
焼きたてアツアツのパンを提供する、家庭でも焼きたてのおいしさを楽しんでいただく。同ブランドでそれが可能なのは、独自の方法で冷凍した冷凍パンを活用しているからだ。中間店長は「冷凍パンを用いることで、おいしさだけでなく、店舗運営上の大きなメリットが生まれます」と言う。
通常のベーカリーではパン職人が必要で、それが高いハードルになりがちだが、ここでは職人は不要。焼きたて用のパン生地は冷凍配送され、それを解凍して使うため、生地のロスもない。8坪という小規模のため、パンづくり未経験のスタッフ2人での運営が可能だ。
祖師ヶ谷大蔵店は3種のパンを販売している。「焼きたてパン」は、オーダーを受けてから10分ほど焼き上げ、アツアツのパンを提供する。「クロワッサン系」は発酵させてから、1時間ほどで焼成。いずれも注文に応じて焼くため、食品ロスを最大限に抑えられる。そして、前述した冷凍パンの販売だ。
オープンは10時。これに間に合わせるには、通常のパン屋なら早朝5時頃に出勤しないといけないが、この店では8時に入店。10時には約50品の準備が整う。新人スタッフは、30時間のトレーニングで製造と販売について学ぶ。中間店長はこの店に週2回、土日のサポートのために入店するだけである。
この店では、スタッフから作業効率アップのための改善案が多く出される。ちょっとした便利な備品の要望があると、店長はすぐに買ってくる。「こんなパンを作りたい」というアイデアが出ると、店長が材料を買ってきてスタッフが試作し販売する。売れれば定番商品にもなる。
パンの中身を変えたりもする。この店では新商品に果敢にチャレンジすることが認められているのだ。「現場のスタッフがお客様のニーズを一番よく理解しています。彼らが聞いたお客様の声を基に、新商品の提案が行われます。こういう提案が必要なんです」と、中間店長は語る。こうして自律型スタッフが育っていくのである。



定着率アップのポイント
4店舗を統括するポイントを中間店長に伺うと「コミュニケーションが大事」と言う。「もちろん、時には不満も出ます。いいことも悪いことも、とにかくスタッフの話を聞くことにしています」とのこと。こまめな声掛け、仕事のことに関わらず困っていることの話や雑談など、できる限りスタッフの想いを吸い上げて、対応できることはすぐにやるようにしている(クイックレスポンス)。そのためスタッフの定着率は高い。
以下は、私の店長セミナーにおいて紹介している定着率アップのポイントだ。①毎日全員に声を掛ける(プライベートな話を聞く)、②いつも感謝の気持ちで接する、③やる気を引き出す褒め言葉を効果的に使う、④カウンセリングを定期的に行う(2カ月に1回)、⑤スキルや能力がつく仕事を任せる、⑥スタッフには平等・公平に接し、意見を取り入れる、⑦店内行事やコンテストを通じて、仲間意識チームを高めるなど。中間店長も常にこれらを実施している。
中間店長の褒めると叱るのバランスは、褒めるが8で、アドバイスが2とのこと。褒め言葉は「以前よりスピードアップしたね」「きれいなパンだね」「これは売れそうだ!」「常連さんとの会話、よかったよ」などだ。今後の夢は「アールベイカー ミニの店舗をたくさん増やし、海外にも出店したい」とのこと。将来は「中間FC教育部長」だろう。
◆店舗情報
店舗名/R Baker mini 祖師ヶ谷大蔵店
所在地/東京都世田谷区祖師谷1-10-7
TEL/03-6411-5066
店舗面積/8坪
営業時間/10:00~20:00
客単価/750円
平均月商/300万円
従業員数/正社員1人、PA8人

◆著者プロフィール
たなかしろう
(株)田中コンサルティング事務所代表。大手ファーストフードからステーキハウスまでの店長・SV・営業本部長を経て独立。雑誌「飲食店経営」25年常連執筆。「実力店長養成講座」(出張研修)は300社2万人実施。中国飲食経営者日本視察セミナーコーディネート実施。著書「店長の仕事」「実力店長はここが違う」(商業界)「売上5割減でも巻き返せる!これからの飲食店経営者・店長の教科書」(同友館)。田中コンサルティング事務所 ブログ累計25万人突破。
※こちらは「飲食店経営」 2024年3月号からの転載記事です