(株)田中コンサルティング事務所 田中司朗

コロナ禍以前より売上120%アップ
年商は5億5,000万円
◆今回の実力店長
千房 道頓堀ビル店
石垣 輔 エリアマネジャー(44歳)
「千房」は千房ホールディングス株式会社(中井貫二代表)が経営するお好み焼き専門のチェーン店。現在68店舗(海外含む)を展開している。

経営理念は〝創業の目的(共に咲く喜び)を忘れることのないよう心掛け「マナアの心」を基盤に置き将来にわたり堅実な会社運営を行う〟である。マナアとは、「マ」真心=思いやりと奉仕の心、「ナ」仲間=信頼と友情 そしてファミリーの心、「ア」味=食哲学の革命 それは味に楽しさを盛り込んだ心、という意味だ。
今月は、道頓堀ビル店(年商5億5,000万円)と千日前本店という千房を代表する大型店舗を統括する石垣輔エリアマネジャーにお話を伺った。
道頓堀ビル店は関西を代表する繁華街に位置する、4フロア180席の大型店だ。平均月商4,700万円の超繁盛店だが、コロナ禍で一番厳しかったときには、売上が3%まで落ち込んだ(97%減)。現在はコロナ禍前の売上を大きく上回り、前年比120%と大きく伸長中。つまり年間1億円もアップさせていることになる。
売上拡大120%、四つの要因
1.観光スポット「道頓堀」
好調の外部要因として、まずは一等地であることが挙げられる。道頓堀という関西を代表する観光エリアに立地し、円安の影響などで拡大中のインバウンドの受け皿となっている。また大型店であり、非常に多くのお客様を受け入れることができる。



2.客席回転率(客数)アップ
通常お好み焼きは調理に20分程度かかるが、この店ではお客様の入店と同時に調理をスタートする場合もあるので、通常より短い時間で提供できる。看板商品の「道頓堀焼」が商品構成の50%を占めるため、ある程度の先行調理が可能な状況もあるという。
3.客単価アップ
この店の看板メニューは「道頓堀焼」(1,900円)、「広島焼ミックス」(1,780円)、「明太マヨネーズ」(1,700円)だ。
一等立地のおかげもあって、客単価は千房の他店より高い。コロナ禍前は1,800円で現在は2,000円と、200円アップしている。1日の来店客は平均800人程度なので、コロナ禍前と比べて1日15万程度の売上向上だ。
4.サービス力アップ
道頓堀店には80人のアルバイトスタッフがいて、そのうちの60人が外国人(ネパール、スリランカ、ベトナム他)である。
このため、日本のホスピタリティや親切心、礼儀・礼節の重要性をしっかり踏まえた上でのテンションアップや、パフォーマンスなどの教育を行っている。
またGoogleビジネスマップのコメントで褒められたことや、注意されたことに対して徹底指導し、サービス力アップに力を入れているので、顧客満足度が高い。
常連客がスタッフを指導
ちょっと驚くいい話をいくつか紹介しよう。石垣マネジャーが町田店(東京都)の店長だったとき、ワンマネ(1人店長)体制だったため、休日は学生アルバイトに営業を任せていた。常連客の多い店だったので「店長が休みでも、みんな頑張っていたよ」などと、しばしばお客様から報告を受けた。何か問題があったときにも、その問題点を常連客が教えてくれたという。なんと、常連客が終礼に参加することもあったほどだ。
また、たとえオペレーションに問題があっても、何も文句を言わずにお帰りなってしまうお客様がいるが、そういう場合、文句こそ言わなくても二度と来店しない人が大半だという。それは最悪だと石垣マネジャーは思っている。だからこそ一日を締めくくる終礼では、その日に気づいたことを全てスタッフに伝えて速やかに指導していた。今日の反省を今日の終礼で行い、今日のうちに指導することが重要。「あのご案内はすごく良かった」「あのタイミングでのあの対応は問題だった」など、その日のうちに問題点を認識してリセットし、明日のオペレーションの改善につなげていくのだ。この終礼は評判を呼び、近隣の千房の店長が続々と見学に来たとのことだ。

石垣マネジャーは入社20年になる。この間に多くの学生アルバイトが卒業して就職した。5年後や10年後、結婚式に招待されることも多い。これまで10人以上の元アルバイトたちから招待されている。
また、当初は飲食業に向いていなかった不器用な学生が、石垣マネジャーの下で働くことで成長し、千房や大手飲食チェーンに入社を果たしている。とても影響力の大きいマネジャーである。
外国人スタッフの育成
お客様の8割以上が外国人の道頓堀ビル店。きちんとした挨拶、明るく大きな声、活気、エレベーターの扉が閉まるまでのお辞儀などを通して、日本のサービスレベルが高いことを外国人のお客様に実感してもらい、そして感激してもらいたい――。そのためにもスタッフ教育が重要なのだ。前述したように外国人スタッフが4分の3を占める店なので、日本の「もてなし」の文化を徹底教育するとともに、エンタメ性の高いパフォーマンスで外国人客を魅了するサービスの教育も行っている。
例えばお好み焼きのパフォーマンスとして、マヨビームというものがある。約2m離れたところからお好み焼きにマヨネーズを飛ばすのだ。お客様には「写真の撮影準備をしてください」と前もってお知らせする。このマヨビームは練習をかなり積まないとできないパフォーマンスで、お客様の前で行うには店長の許可が必要だ。
石垣マネジャーの褒めると叱るのバランスは、1対9とかなり厳しい。外国人スタッフの場合、そのときその場で分かりやすく、大げさといえるほどはっきりと叱った方が効果的だからである。また普段厳しい店長から、たまに褒められたときの感激はとても大きい。
最後に、今後の目標を伺った。「短期的には、4月オープンの新しい店を成功させること。それは7階のハラル(イスラム教)専用の店で、食材やメニューへの配慮はもちろん、絨じゅうたん毯を敷いた祈祷室や体を浄められる設備も完備している。将来的には、外国人スタッフ(店長や社員やアルバイト)が自分の国で千房のFCを経営してくれるのが夢。世界各国に千房が広がってほしい。それらの国々を訪問したいです!」と語ってくれた。
ハラル対応の店もでき、ますます売上拡大が望める道頓堀ビル店である。
◆店舗情報
店舗名/千房 道頓堀ビル店
所在地/大阪府大阪市中央区道頓堀1-5-5 千房道頓堀ビル1~7F
TEL/06-6212-2211
客席数/180席
営業時間/11:00~23:30
客単価/2,000円
平均月商/4,700万円
従業員数/正社員18人、PA80人

◆著者プロフィール
たなかしろう
(株)田中コンサルティング事務所代表。大手ファーストフードからステーキハウスまでの店長・SV・営業本部長を経て独立。雑誌「飲食店経営」25年常連執筆。「実力店長養成講座」(出張研修)は300社2万人実施。中国飲食経営者日本視察セミナーコーディネート実施。著書「店長の仕事」「実力店長はここが違う」(商業界)「売上5割減でも巻き返せる!これからの飲食店経営者・店長の教科書」(同友館)。田中コンサルティング事務所 ブログ累計25万人突破。
※こちらは「飲食店経営」 2024年6月号からの転載記事です