(株)田中コンサルティング事務所 田中司朗

カニ三昧、カニづくし 至福の2時間で売上130%上昇!
◆今回の実力店長
かに地獄 新橋
村田 光広 上級店長(46歳)
「かに地獄 新橋」は、株式会社ダイヤモンドダイニング(松村厚久代表、以下DD)が経営するカニ料理専門店。同社の経営理念は「私たちは圧倒的な『カッコよさ』という価値観で、すべてのステークホルダーに対して『熱狂的な歓喜』を呼び起こし、『お客様歓喜』を追求します」である。現在、DDグループ(全14社)として116ブランド、320店を展開している。
かに地獄ではお客様が自分でカニを選び、好みの調理方法で食べることができる。覆面調査評価が平均90点超え。100点の月も多く、店舗レベルの高い店だ。
今月は、3年前に同店に異動してきた村田光広上級店長にお話を伺った。当時はコロナ禍で非常に厳しい経営状況だったが、現在は平均月商2,000万円(売上前年比130%)の繁盛店となり、12月には2,600万円の最高月商を記録。社内所属営業部での売上予算達成賞1位も受賞している。

売上好調三つの要因
かに地獄の客単価は8,000円。新橋という立地から、平日の客層は会社員中心で、週末は平日に満足した会社員が家族を連れて来店することが多い。
村田店長の店長方針は「『蟹で満腹もう地獄』という店舗コンセプトの下、最高に満足していただく2時間にしよう」。「かに三昧」「かにづくし」の各コースは、それぞれカニを存分に味わえる至福の2時間となっている。

1.SNS(インスタグラム)の発信
村田店長は料理の画像をSNSにたくさん上げている。それが有名なインフルエンサーの目に留まり、あるときその人によって多くの動画が撮られ、発信された。それが100万回も再生される結果となり、店の認知度が一気に向上したという。
2.カニを選ぶ・剥(む)く・競(せ)る
かに地獄では、お客様自ら店頭でカニを選べるだけでなく、焼くかゆでるか、好きな調理法も選べる。村田店長の異動後からは、お客様の目の前でカニを剥くサービスを徹底化。これが口コミで広まり、お客様が増えた。また週末(金・土・日)にはカニの競りを実施している。店内を暗くし、店長がビールケースに登って鐘をカランカランと鳴らし「当店名物、カニの競りを始めます!」と叫ぶや、1万円前後のその日イチオシのカニの競りが100円からスタートするのだ。店内は非常に盛り上がり、かなりの高値がつくこともある。選ぶ、剥く、競るというパフォーマンスが、口コミ効果を増大させている。

3.外国人スタッフの教育
まだコロナ禍の只中にあった2021年、東京都が4人までの会食許可を出した途端に店が急に混み出した。それまで300~400万円に留まっていた売上が、11月には600万円になり、12月には1,400万円になったものの、人材がそろわず、オペレーションは混乱を極めた。スタッフは外国人ばかり(うち8割がミャンマー人)で、忙しすぎて辞めてしまう人も少なくなかった。失敗と改善の連続で大変な日々ではあったが「そのときの経験が現在に生きています」と村田店長は言う。
アルバイトリーダーも3人育成した。毎月の目標をホワイトボードに記入し、教育用のチェックシートも作成。「このような店にしたい」という理想のイメージを思い描き、入店から退店までのストーリーを打ち立て、それに基づいて教育したのだ。
フロリダのハネムーン夫婦からのメール
村田店長に、最近うれしかったことを伺った。「かに地獄は記念日や特別な日に利用されることの多いお店です。最近ハネムーンで立ち寄ったフロリダのご夫婦から、心に響くお礼のメールが届きました」。
メールには「私たちは新婚旅行中、日本語を話せなかったのに、この店で素晴らしい時間を過ごしました。日本ではどの飲食店のスタッフも親切でしたが、ここでは特に優しく親切に接していただきました。観光地ではないところでカニを食べたいという私たちの願いを、この店は叶えてくれました。この店の特別なサービスに、私たちは永遠に感謝します。もっと日本語を勉強して、この店に戻ってきたいと思います。本当にありがとうございました」と書かれていた。


スタッフには「伝わるまで伝える」
村田店長がこの店に異動したばかりの頃は、新しいこと(仕組みや方法)にトライしようと試みても、以前から働いているスタッフに受け入れてもらえなかったという。その状態を打開すべく、とにかくスタッフの声にしっかり耳を傾けた。そして自分の考えを、分かってもらえるまで丁寧に説明し続けた。また、自ら率先してお客様に対応し、一つのテーブルに集中してサービスする姿を見せた。お客様が喜んでいる様子や数字が良くなっていく結果を見せるうち、スタッフみんなに納得してもらえるようになった。
お店の理想像を描き「ここを改善したい」と、理想の実現に向けた具体的な目標を掲げて、スタッフに動いてもらうようにした。みんなに伝わるまで徹底して伝え続けた。そうして半年ほど経ち、店の空気は見違えるほど向上し、チームワークも良くなったのだ。なお、特に注力したのは左記の五つだ。
①カニのクオリティを重視(身の付き方や色合いが良いもの以外は提供しない)、
②全員が入り口を向いて仕事する(お客様を迎える姿勢)、
③笑顔と元気な声(笑顔が出て、声も大きくなった)、
④カニを剥くサービスのタイミングを意識、
⑤カニを選んでいただくタイミングを意識(入り口のショーケース前が混み合うので、順番にご案内。商品説明がきちんとできるようになり、店長不在でもスタッフだけで営業可能になった)。
このように改善をして、着実に結果を出してきた。会社からの信頼も厚く、村田店長の下で働きたいという社員の声も多い。この店にいると、スタッフもイキイキと仕事をするようになっていく。お客様だけでなく社内の人材まで活性化させるのだ。
村田店長の今後の夢は「かに地獄の2号店を出すこと。そして、かに事業部を作ることです」と、笑顔で語ってくれた。
◆店舗情報
店舗名/かに地獄 新橋
所在地/東京都港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビルB1F TEL/03-3502-6101
店舗面積/30坪
客席数/68席
営業時間/平日17:00~23:30、土日祝15:00~23:30
客単価/7,000~8,000円
平均月商/2,000万円
従業員数/正社員3人、PA16人

◆著者プロフィール
たなかしろう
(株)田中コンサルティング事務所代表。大手ファーストフードからステーキハウスまでの店長・SV・営業本部長を経て独立。雑誌「飲食店経営」25年常連執筆。「実力店長養成講座」(出張研修)は300社2万人実施。中国飲食経営者日本視察セミナーコーディネート実施。著書「店長の仕事」「実力店長はここが違う」(商業界)「売上5割減でも巻き返せる!これからの飲食店経営者・店長の教科書」(同友館)。田中コンサルティング事務所 ブログ累計25万人突破。
※こちらは「飲食店経営」 2024年9月号からの転載記事です